深層学習(deep learning)と機能的MRIの融合による、個人の嗜好を模倣する人工知能の作成
深層学習(deep learning)は機械学習の一分野ですが、近年この手法を用いた人工知能の作成が盛んに進められています。特に画像情報処理においては、様々な課題において(画像識別等)、深層学習を用いて訓練された人工神経回路は人間と同等のパフォーマンスを発揮すること、および、哺乳類の視覚情報処理経路と類似した情報表現を獲得すること(Yamins et al., 2014 PNAS, Güçlü et al., 2015, JNS)が明らかにされています。私たちのグループではこの深層学習と機能的MRIを融合させることにより、個人の嗜好を模倣する人工知能の作成に取り組んでいます。その成果物の一つとして、写真の好みから油絵の好みを推測し、お勧めの美術館を提案するシステムを開発しました。下記のリンクからお試しください。
脳機能ビッグデータ解析によるこころの基本単位の解明
心理実験を適切にデザインすることにより、特定の脳機能と脳領域の対応をつけることが可能です(順推論)。しかし、脳活動から被験者のこころや認知の状態を推定すること(逆推論)は困難です。それは、単一の認知機能であっても複数の脳領域を必要とする一方で、単一の脳領域は複数の認知機能に関与することが先行研究から明らかにされており、脳機能と脳領域は多対多の関係にあることが示唆されているからです(Barret and Satpute 2013; Yarkoni et al., 2011)。私たちのグループでは、この多対多の対応関係を明らかにすることで、適切な逆推論を行うことができると考えています。この逆推論の問題に関しては、神経科学大会2017で発表したスライドや生理研トレーニングコースで用いたスライドをご覧ください。
ヒト味覚の神経基盤の解明
げっ歯類やサルの研究から、味覚の処理中枢は島皮質と呼ばれる領域であることが明らかにされています。しかし、ヒトにおける味覚の処理中枢がどこであるか、味覚の質は脳内でどのように表現されるのか、といった基本的なことすら、実はよくわかっていません。私たちのグループでは、島皮質において、基本味覚(苦味、甘味、酸味、塩味)が区別されていることを明らかにしました(Chikazoe et al., Nature Communications, 2019)。今後は、機械学習の手法を積極的に用いることで、ヒトの味覚がどのような脳の働きによって生じるかを明らかにしていきます。
精神・神経疾患のバイオマーカーの開発
精神疾患の診断・治療効果の判定は、医師の主観的判断によるところが大きく、evidence-based medicine (根拠に基づく医療)という観点から、これらを客観的に判断するためのバイオマーカーの開発が望まれています。現在は、安静時脳活動データを機械学習的手法により解析することで、このような判定を行う分類器を作成する試みが世界中で行われていますが、まだ実用には移せないレベルのものしか作られていないのが現状です。私たちのグループでは、全く新しいアプローチの解析手法によって、実用レベルのバイオマーカーを開発することを目指しています。
Chikazoe et al., Nature Communications, 2019